いつかくるそのHappy Day

 

Acter 河野貴明 向坂環 柚原このみ

 

 

けたたましい目覚しの音にゆっくりと頭を持ち上げる。

まだ眠い体は、強力な磁石に引き寄せられているかのようにベッドを求める。

3,2,1―――ダウン

「ね、寝ちゃダメだよ〜」

うるさい。俺は今眠いんだ。昨日やっと最後のバイトを終えたところなんだ。

目的の物も買えた。偉業を成し遂げた自分を敬いたい気分だ。だから、寝かせてくれ。

「寝ちゃダメだってば〜、ね〜タカくーん。今日出発なんでしょ〜!?」

・・・・・・出発。はて、どこに?

「ダメよこのみ。こんなタカ坊には」

布団に身を沈めて、暖かいはずなのに背筋が少しだけ寒くなる。

これが長年培ってきた危険察知能力か・・・っ!?

俺の頭に優しく柔らかい手が乗せられる。そして

「これくらいしないと・・・・・・っ!!」

の掛け声と共に、それは万力と化した。

 

「ああああぃぃぁだだだだだだだだッッッ!?!」

割れる!本当に割れてしまう!!もう頭から何もかもが流れ出してしまいそうになるっ!!

「タ、タマ姉っ!ギブッ!ギブッッ!!」

ぱっと力が抜けた手から俺の頭が解放される。

ははは、すげぇぜジョージ、ちょっと新世界が見えたよ。

ていうか、今初めて雄二のことを尊敬しました。

 

「おはようタカ坊」

「お、おはようございます。タマお姉さま・・・・・・」

「ってこんなことしてる場合じゃないわね。タカ坊、早くこれに着替えなさい」

そういって渡されるのは俺の服一式。

「へ、なんでさ。今日は別に何もすることはなかったはずだけど・・・・・・」

横目でカレンダーを確認するが、そこには何も書いていなかった。

「いいから。四の五の言わずに着替えなさい。早くしないと着替えを無理やり手伝うわよ?」

私は別にそれでも良いけど?なんていうタマ姉。横ではこのみが顔を赤くしている。

「いや、着替えます。はい」

とりあえず逆らわないのが無難だろうな。

 

 

 

 

 

 

 

「はい」

「ナニ、これ?」

着替えてリビングに下りてきた俺に渡されたのはとても大きなアタッシュケース。

「なにって、旅行鞄だけど?」

「いや、見ればわかる。そうじゃなくて、なぜこれを今俺に渡すのかってこと」

しかも伊達な大きさじゃない。一体これを引っさげてどこに行くというのだ。

「隊長〜、コートを持って来たであります!」

「ちょっ、このみ!?なんで起きたばっかりなのにコートを?て言うかそんなコートどっから持ってきたんだよ」

このみが持ってきたのはいかにも高そうで暖かそうなコートだった。もちろん俺はそんなものを買った覚えも持っていた覚えもない。

「私とタマお姉ちゃんからの餞別だよ〜」

えへ〜、と溶けそうな笑顔で俺にコートを渡してくる。

「餞別?」

「そう、タカ坊がニューヨークに行くから、その餞別」

「ニューヨーク・・・・・・ささらのところに?ちょっと待ってよ。これじゃあまるで俺が今から出発するみたいじゃないか」

確かに今日でもう12月。そして、懸命なバイトの成果あってNYへ行く資金も蓄えた。目的の物も買った。だけどささらに会いに行くのはクリスマス。まだ半月以上も時間がある。

「まだNY行きのチケットも買っていないって言うのに」

「あ、そうそう。もう一つ餞別があるのよ」

聞いちゃいなかった。

「はい、これ。これは向坂家として、目的を成し遂げたタカ坊へのご褒美よ」

そういって、一枚の封を渡される。

「・・・・・・?――――ッ!!タマ姉、これ・・・・・・」

それは・・・・・・NY行きの航空券とNYのホテルの宿泊チケットだった。

 

「タカ坊、昨日がバイト最終日だったでしょ。だからね」

「―――受け取れない」

「え、タカ君―――?」

俺は封の中にチケットをしまう。

 

「―――理由を聞いてもいいかしら?」

別にそれに対して怒っている風でもないタマ姉が聞いてくる。

「逆に聞きたいのはこっちのほうだよ。俺が何のためにバイトしてお金貯めてたと思ってるんだ。ささらに自分で会いに行くためだろ」

「―――そうね」

「こんな形でこれを手に入れてしまったら、俺のやってきたことが、意味ないみたいじゃないか。こんなの、タマ姉らしくないよ!」

無意識に声を荒げてしまう。けど、それほどまでに屈辱的な気分だった。

タマ姉はしばらく俺を見た後、一度息をついてから、表情を鋭いものへと変えた。

 

「―――で、タカ坊はそんな自分に満足しながら久寿川さんに会いに行くのね」

「―――!?」

「確かに、私のしたことはあなたの努力を無駄に見せるかもしれない。でもね、それはタカ坊の都合でしかないのよ」

「タマお姉ちゃん・・・・・・」

「このみは黙ってて。タカ坊、これはね、女としての意見よ。別に聴く聴かないはあなたの自由。でもね、きっと久寿川さんもそう思っていると思うわ」

「ささらが?」

ささらが、思っている。

「そう。女の子はね、いつでも一番好きな人に会いたいのよ。ずっと一緒にいたいの。一分一秒でも長く一緒にいたいの」

それは、男だって同じだ。俺だってささらとずっと一緒にいたい。離れたくない。あの逃亡劇だってその表れだった。

「タカ坊の考えも立派。いいえ、とても大切なことよ。でもね、相手にとって、それがベストなのかと聞かれればそれはNO。会いに行くのが目的ではないの、一緒にいることを優先すべきなのよ」

・・・・・・一緒にいることを。

「早くいって、一緒にいてあげなさい。あなたが貯めたお金とそのチケットがあれば、一緒に年も越せるわ」

だから、ね。タマ姉はそういって俺を抱きしめてくれた。

 

俺は少し意地になっていたのかもしれない。会いに行くことはもちろん大切。

だけど、どれだけ長くいられるかというのを考えていなかった。

約束を果たすためにがむしゃらになっていた。

ささらと一緒にいることが何よりも大切なのに。

「ありがとう、タマ姉。俺行くよ」

「うん」

「―――行くから」

「うん」

「――――――ちょ、そろそろ放してくれないかな」

「ダーメ。しばらく会えなくなるんだからタカ坊分をここで蓄えておかないと」

あー、この抱き心地がしばらく味わえないなんてー。と嘆きながらも全然離してくれる気配を見せない。

「あー、タマお姉ちゃんばっかりずるいー!隊長―私もでありますよー」

そういって俺の背中に抱きついてくるこのみ。

 

 

俺が解放されたのはそれから30分後だった。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

二次創作を書いたのは実はこれが初めてという柊ねこです。

TH2はいい作品でした。うん、とにかくささらが好きだ(直球

しかし、ささらルートの貴明のへたれ具合もなんとも言えず(まぁ某貴●とまでは言いませんが)そんなこんなで結構印象に残るルートだったと思います。

さて、二次創作。手ごわい()オリジナルを書いているときでもたまにありますが、キャラが全然つかめなくなったりします。たいした量かいてないくせに、なんか倍疲れた感じがorz

これを読んで気分を悪くされた方、ごめんなさい;;

著者:柊ねこ